ココロだより(2022年秋号)/回想法について
長澤 奈美
回想法という言葉を聞かれたことがありますか?
回想法は、1963年アメリカの精神科医ロバート・バトラーが、高齢者が昔を思い出し回想することに意義があると謳い、心理療法の技法として広めました。当時は、高齢者が過去を懐かしく振り返る傾向は、現実逃避として否定的に捉えられていました。しかし彼は、「昔を懐かしむことは、自然な事であり、過去の未解決の課題を再度捉え直すことも導く積極的な役割がある」と語り、その時代では画期的な提唱でした。
回想法には、自尊心の向上、意欲の向上、情緒の安定、他者交流の広がり、認知症への対応や予防などの効果があると言われています。実際に、昔を思い出したり人と語りあう時に、前頭前野の脳血流が増加することもわかっています。また、一緒に話を聞くスタッフや家族は、高齢者と語らうことでその方の人生や考え方を知ることができ、こだわりや習慣をより深く理解することで、日常の援助に生かしていくことができるようになります。
認知症の有無や形式にこだわらず、自宅で昔のドラマを見たり、昔よく聞いていた音楽をかけながら家族間で会話をすることや、施設スタッフがコミュニケーションの一環として、昔の思い出を聴くことでも回想法を取り入れることができます。昔のことが思い出しにくいようならば、昔の写真やおもちゃ、馴染みの生活用品、文房具、懐かしい味など五感を刺激するものを用いることで、より鮮明に過去を思い出すことができます。人は、語り合う相手がいれば、喜びや幸せな気持ち、大変だった経験を乗り越えてきたことも一緒に分かち合い、充実した時間を過ごすことができるようになります。あなたも、目の前の人生の諸先輩方との世代を超えた交流を通し、小さな物語の伝承をしてみませんか。
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