ココロだより(2023年夏号)/聴くということ

長澤 奈美

 先日コミュニケーション力が高い人は傾聴力も高い!という見出しを目にした。傾聴力は、アメリカの臨床心理学者カール・ロジャースが提唱したもので、カウンセラーには必要なスキルと言われている。傾聴力は、カウンセリング以外にも、信頼関係や良好な人間関係を構築する際に重要となるスキルのため、ビジネスシーンや教育現場でも重要視されている。

 生まれたばかりの赤ちゃんは聴いてもらわないと生きられない。赤ちゃんの関心事に対して関心を向ける。赤ちゃんの要求に対して、寄り添い、受け止める。これらが聴くという行為の原型だと思う。
 土居(1977)は、「ただ情報を集めても全体的な理解は所詮不可能である」「理解するということは、事柄の間の関係が見えてくるということ」と述べている。
 話し手の心の状態を聴き手が何をどれだけ、どんな風に理解したかは、聴き手の応答として表現され、話し手に伝わる。カウンセリングでは、カウンセラーの聴く力が、面接の進み方や展開が左右し、話し手の心の作業の進み具合や、双方の関係をより深めていく。話し手が、今語る情報や事実、感情の間にはどんな関係や意味があるのか。そして目の前のカウンセラーに語ることにどんな意味が込められているのか。カウンセリングでは、これらを理解できるような傾聴を心掛けている。

 しかしながら、私の日常では、子どもの話を料理や掃除をしながら聞いたり、夫の愚痴を「はいはい」と聞き流していることがあり、聴くということができていない現状がある。そこには、日常が忙しいということや話を聴くということが、ただそれだけで、「疲れる」に繋がりやすい点が関係していると思う。特に、語り手の心の状態が不安定な時は聴き手の疲労感は増すので、聴き手自身の心身の安定をどのようにして保つのかも重要になってくる。前回のこころだよりでご紹介したように、自身の心身の安定を保つスキルを増やしながら、自分が聴いてほしいように、相手の言葉に耳を傾けることを心掛けたいものだ。

引用文献
土居健郎 1977「方法としての面接-臨床家のために」医学書院